「 夢のひととき〜スタンドの灰皿 」

ひとり煙と空想を楽しむために、持ち運べる灰皿を作ったことがある。

街で煙草を吸うことは不可能になったが、これをぶらさげ庭に出て、孤独な構想を練る時間は、混沌を整理するために永遠の、僕にとってかけがえのない夢をみるひとときである。





伏せた帽子のような形を打ち出すのには鉄パイプを使った。内ズミがきりっと整い、平らな銅板が手跡を残して、静寂の中の鎚音に従い、みるみると生き生きとした曲線に生まれ変わっていく。

黒錆で仕上げたスタンド部分には、そのころ覚えた真鍮に銀を溶かして被せるリングを着けて手掛かりとした。
年月を重ね、侘びさびた鉄の黒色と、銀の輝きが対照していて美しい。

煙草を消すのにかかせない凸凹をデザインするのはむずかしい。
お気に入りの渦巻きのかたちを、銅線でつくり銀で溶着して、赤い銅と銀のコラボレーションを楽しんだ。



製図にCADを使いはじめたのはこの頃になる。
今までの職人の勘仕事を、数値に置き換えるのが新鮮で夢中で覚え、3D空間は三面図ではうかがい知れない無限の手掛かりを与えてくれている。
文房から さらさら という鉛筆の音が消え、頭の中はモーター音が伴奏するディスプレイ上の疑似空間におきかわり、製図は理性だけが先行する作業へと変化した。
コンピューターを使うようになり、伝達手段は紙に比べてはるかに便利にはなったが、僕の仕事は暗黙知ともいわれて感性が優先する。やはり経験値や勘がものをいいながら バーチャルな夢が現実となり、手の内に掴んだ瞬間の感動は昔ながらで、なかなか得がたい。