「 三本脚のスツール  三本脚の小さなスタッキングチェア」


畑を耕すと斜面の土は自然に水平に近づいて僕達を悩ませる。
水平上が、なにをしても具合がいいことを、斜面に暮らして土をいじって痛感したが、なるほど平野や盆地に町や都市が発展するわけである。

しかし水平な海だって池だってさざ波がたっているではないか・・自然の造形には、直線、まんまる、直角、ピカピカな真っ平らというものがないことに気が付いたのもこのころで、都会で育った僕にはこんな当たり前のことが新鮮だった。自然の奥深さは、手鉋や鑿や小刀の、さざ波のように美しい手仕事の痕跡を残した仕上げに置き換わり、夢中になって今に続いている。


「三本脚の庭の椅子・1997年 初雪の庭で」

4本脚の椅子が、凸凹のない床、つまり人工の空間でしか役に立たないと、三本脚の椅子を作ろうとスケッチしたのは田舎に暮らした必然といえよう。以前京都で、日用品の美を提唱した河井寛次郎の仕事椅子が三本脚だった記憶と重なり、それまでの作品に野性味が加わって、ころあいの大きさの三本脚の仕事椅子を鉄仕事用に作った。陶芸や鉄の仕事場は土間が最適だが、椅子のがたつきはしまりのない仕事につながりがちである。きちんと腰が据わって気持ちの良い環境で仕事が出来るようになったのは三本脚のおかげだが、この椅子はおむすび形の座面にステッチの美しいヌメ革を張って、以来僕のお気に入りの仕事道具になっている。

鉄の仕事椅子は、芝生のダイニング、飾り椅子、サイドテーブル、バースツール、半円の座面、轆轤の手跡の栗板、革巻きの背当て、アルミ鍛造の脚部、肘掛けのかたち、座面の高さなど、さまざまなパターンに発展し、2000年和光展へと続いて、スタッキング(重ねられる)という副産物も生まれた。


待ちこがれていた春がはじまり、雪が姿を消し始めて大地が黒々と湿り気を帯びてくる。緑と土の匂いが、そよそよとした風にのり心をくすぐり、皆が長かった冬の終わりを歓迎する。
庭に出て煙草をふかしていると、羊歯の芽がかすかに風に揺れて、美しく朝日に輝いていた。
 
柔らかい芝生にもぐらない脚端のデザインは、鍛造の鉄に真鍮を溶かして装飾した「渦巻き」としてこのとき生まれ、日本の柔らかい畳や床を痛めない椅子やベッドへと発展している。
広い面積で加重を支える必然は、堅い床に土足で暮らす西洋にはないデザイン要素で、僕のライフワーク〜日本の椅子〜の脚端部の特徴となった。小さい体に大きな存在、狭い空間を広く使うことが得意な日本では、方々でお使い頂いていて、大きな体の犬塚弘さんのお気に入りのひとつともなっている。