松本市の工芸家、前田純一さん(58)が主宰する「前田木芸工房」が、手作りの木の家具などの展示会を、東京・JR新宿駅近くの「東急ハンズ新宿店」で開いている。「手の復権展?日本の手の仕事、愉(たの)しい」と題して、木や鉄、銅や和紙などを組み合わせた三十点を紹介。大量生産・消費の時代「自分の手でものを作る喜びをもう一度、思い起こして」との願いを込めた。同店六階の展示コーナー。繊細な木目のナラ材と、金粉をあしらった鉄を組み合わせた「祈りのいす」、わらのひもでランプの高さを調節できる「和紙と鍛鉄のランプ」、コロコロした銀の飾りが付いた鉄の火箸など、一品一品、丁寧に形作られた作品が並ぶ。 住まいや手作り関連の製品、道具、素材などを扱う同店の依頼に応じ、「手仕事のぬくもり」をクローズアップした企画展だ。前田さんが作った家具と、弟子たちが共同制作した作品を出品。二十年前に作った「ミュージックキャビネット」などは、今も自宅で使っている客から借りてきたという。 フランス語で「板」を意味するプランシュ」と題したシリーズは、タモ、ナラ、クリなど、素材も大きさもさまざまな、三本脚のミニサイズ家具。一枚の板を前に、わいてきた発想を大事にしたという。"くの字"形や、柔らかにカーブした台に、花瓶を飾る、酒とさかなを置く、など、発想次第でいろいろな使い方ができそうだ。
工房の弟子の一人、石川真帆さん(24)は、金づちで表面をたたき鍛えたアルミのプレートを作った。たたいた跡の模様が、手仕事ならではの、豊かな表情を醸している。「失敗もあるが、手でしかできない仕事があると思う」と話した。 前田さんは、東京の江戸指物師の三代目に生まれた。東急ハンズが創業し、神奈川県藤沢市に、小さな第一号店を開いたのは、三十年前。当時、同県鎌倉市に住んでいた前田さんは、ハンズに勤めていた知人の村井東志さん(56)に頼まれ、店で木工教室を何度か開いていた。 ハンズはその後、大きく成長し、店舗も増えた。今回の企画展は、改装した新宿店の「増床企画プランナー」を務める村井さんが依頼して実現した。「機械文明の中、何でも大量生産のもので手軽に済ませる時代。人の手の介在する道具を使うこと、自分で生活を豊かにつくることを、、もう一度、原点に返って呼び掛けたい」と村井さんは話す。
前田さんは八四年、自然豊かな環境に引かれ、松本に移住。自分たちの手で設計し建てた山間の工房では現在、五人の若い弟子が、住み込みで学ぶ。「今は作り手の顔や魂が見えない物があふれている」と前田さん。「道具を作り、使うのが人間の原点。何よりも、自分で作ることは、楽しいんですよ」と話している。 企画展は十一月五日まで。三日は午前十一時と午後四時の二回、前田さんと弟子たちによる「鉋(かんな)のお話」と題したトークイベントを開く。入場無料。